『中学受験に向かない子が中学受験をする』 2022年1月
「娘に中学受験をさせるかどうか迷っている」小学4年生女子の保護者から相談があった。彼女は言葉数が少なく、単語を羅列したように話し、自信がないのか語尾が聞こえにくい。目を伏せがちで目を逸らして話す。学校でもクラスメイトとコミュニケーションが取れず、会話に入れない。露骨な“いじめ”を受けているわけではないが、関わりは避けられ、孤立している。
思春期を迎え自立心が増していく中学生の生活は、親からは見えにくくなる。中学校での学習についていけるかどうか。高校入試での合否の比重が大きい「内申」をとれるような振る舞いを、彼女がするとは思えない。中学校より高校の募集人数が減る学校も多く、女子高は募集がないところもある。
私立なら中学受験の方が入りやすい。面倒見も良いらしい。また、中高一貫で6年間ある方が、仲間を作りやすいだろう。よりよい学習環境で、いい先生、いい級友に出会い、切磋琢磨して学んでほしいと親は望む。大学への進学を考えても、私立中学は魅力的だ。
一方で、彼女の親には、中学受験に向かないわが子が中学受験に挑むことに不安があった。小学校の学習でも苦労している彼女が、中学受験に耐えうる学力を身につけられるだろうか。人との対峙を避ける気の弱い子に、受験に向かう精神力が育つだろうか。
中学受験は学習量が多い。上位校を目指すほど難易度も上がり、わからないことも増え、自己肯定感が持てなくなる。合格へのカリキュラムありきで、多くの子どもは一人で学習を消化できず親がかりになる。考える力を伸ばすわけではない、合格のためのパターン学習になってしまう。小学校生活を受験にほぼ費やし、疲弊してしまう。偏差値による序列や比較は小学生の段階で必要だろうか。人の見方を誤らせるのでないだろうか。情報過多で保護者の不安は煽られる。中学受験を選択する期待と不安に、迷う保護者も多い。
一方で学習道場では、学ぶことは当たり前の習慣にして、自分事として学び続ける。正しい学習の捉え方、正しい学習法(フォーム)を身に付け、継続する。他者と比べない。中学受験にせよ高校受験にせよ、こういった学習の基礎基本を身につけ、学習に向き合い、自分の学習をつくる場が学習道場だ。合格という目標が明確な中学受験は、自分の学習を鍛える場になる。わからないことを、わかることへと積み上げていく。他者と比べずその子の成長を見る。行きたい学校を受ける。合格を勝ち取るために学力に見合った学校を選ぶ。偏差値はあくまで受験校を決めるための目安。目安を知るために模試を受ける。過度な受験情報に流されず、子どもの成長だけをみて、受験学習で心身を鍛える。学習道場ではこのような単純でわかりやすい、本質的な、生涯学習の基礎となる中学受験ができる。
さて、前述の彼女は小5から受験学習を始めた。言語の発達の遅い彼女だが、話す・書く・覚えるの訓練、具体的には音読や会話のキャッチボール、漢字の書き取り、書写、辞書引き、文章をイメージして読解するなど、地道に国語の学習を継続した。時間がかかり、なかなか成果は出なかったが、小学6年生の後半、心身の成長もあって、書けるようになり、読めるようになってきた。
一方、算数は国語以上に苦労した。四則計算も遅くておぼつかない。数の概念や計算規則、計算の論理的手続きなどの理解が乏しい。自信のなさから「私は間違えている。できない」と決め込み、判断を避ける。100マス計算から始まり、基本的な四則計算、教科書レベルの問題まで、根気よく、スモールステップを積み重ねた。
彼女が何とか受験に間に合った要因は、愚直な性格にあった。誤魔化しをする狡さはなく、わからないことを素直に受け止めた。途中、何度も辞めそうになったが、粘り強く基礎基本の咀嚼を繰り返した。そして彼女は選んだ私立中学に合格。入学後も学習には困らなくなっていた。
西郡学習道場代表 西郡文啓