西郡コラム 『鏡となって伝える』

『鏡となって伝える』 2024年11月

 朝道場や自学室で子どもたちの学習の様子を毎日見ていると、今日はいつもと違う、なにかが変わったと思わせるような子どもの成長が見られる。
 視線があちこちと動き、顔を伏せたり、立ったり、席から離れたり、姿勢を保てなかった子が、学習に向き合い張りつめた姿勢で集中した。彼のなかで何かが変わってきた。自分事として学習に取り組むと、集中した“いい姿勢”になる。それだけではなく、身体の成長も大きい。まっすぐに身体を保てる体幹ができてきているということ。身体が成長してくると学力もついてくる。
 身体と同様に、手の成長も子どもの学力を伸ばす。字の大きさがまちまち、重なる、まっすぐ書けないといったレベルから、成長するにつれ、ノートやメモを取る字、筆算・計算式が、大きさも間隔も一定で、まっすぐにスラスラと書けるようになる。書く字がまともになった。自分のために書いた字になった。スラスラ書けるようになった。確かな学力になって現れる。
 「サボテン」(計算問題)の741÷19の計算をやる。手をつけず、黙ったまま固まった子がいた。「一緒にやってみよう。十の位には1から9までの数字しかない、何が入る。いま、あなたが思った数字を言ってごらん」と言うと、やっと発した数字が7だった。明らかに見当違い。見当違いに呆れられ、とがめられた経験が彼の沈黙になっている。7と判断したことは一歩前進。まず、褒める、認める。19×7の133は、74から引けない。実際に自分でやってみる。7がだめなら6、5、4でやってみる。19×4は76。74より、まだ大きい。3でやってみる。間違えたらやり直す、これが基本。学習に自信を失っている子にかぎって間違えを避ける。まず、判断する、やってみる、間違えたら数字をかえてやってみる。何度も繰り返して、その子は自分でできるようになってきた。
 朝道場は6時30分に開始して最初の12~13分で一斉発声・音読をおこない、次に見開き2ページの「サボテン」に取り組む。「MetaMoJi」というアプリを使っているので、以前にやった問題をコピーして貼りつける子がいる。しかし、このアプリはページを調べれば、ごまかしを見破れる。だませるだろう、見抜かれないだろうという想像力が幼い。ごまかしを指摘され、やっぱりだめかと悟り、時間がかかっても愚直にやりだして、幼さから抜け出す。正直は道場の学習法の一つ、と伝えている。
 「サボテン」はひと月、同じパターンの出題なので、月の下旬になると、所要時間は短くなる。集中できない子は、15分、20分経っても「サボテン」をやっている。「『サボテン』は計算力を高めるだけではなく、一気にやる集中力を高める練習です。手が止まっている人、目の前のサボテンを一気にやりましょう。」毎朝、何度も私はこう呼びかける。毎日、毎日呼びかけ続けて、少しずつ変わってくる。一気にやれるようになるとき、計算力が上がるだけでなく、集中した自信、やり遂げた自信で、子どもは変わる。
 そして、答え合わせ。自分は間違っていないと思い込んでいる子、○つけするのはめんどうだと思っている子は、間違えにも○をつけてくる。私やスタッフがチェックして、その都度、指摘する。次第に、間違えを自覚して、×か☆印をつけて赤でやり直すようになる。私たちがチェックをするのは自転車の乗り初めと同じ、補助をしてあげる段階。学習の独り立ちは自分でチェックできるかどうか。自分自身を客観的にみて律すること、自分自身をモニタリングすることができるのは成長のあかしだ。
 成長は質問を変える。質問のための質問をする、よく考えない、問いをちゃんと読んでいない質問をする子も、質問したこと自体は前に進んでいる。このレベルから、自分自身をモニタリングし、何がわからないか、できないかを考えた質問は質が違ってくる。わかる―わからない、できる―できない、これを見極め、質問の中身が具体的になってくる。「先生から説明を聞いたらわかったが、自分一人でできるかどうかわからない」「解答に書いてある解き方の発想はどうしたら思いつくのか」と聞いてくる子どもがでてくる。確実に成長している。
 子どもたちの一日の成長は目に見えないが、成長がたまってくると表に出てくる。いま、学習に向き合う姿勢になっている。間違えてもやり直した。一気にできた。正直に答え合わせをしている。質問が具体的になった。成長の、その瞬間を見逃さず、鏡となって伝えるようにしている。

西郡学習道場代表 西郡文啓