『ともに過ごす時間』2018年10月
サマースクールのカンボジアのコースでのこと。キリングフィールドに到着し、班ごとに見学に向かうのを見届けたときです。「高濱せんせーい!」という声とともに、高校生が駆け寄って飛びついてきました。突然のことでビックリしたのですが、顔を改めて見ると、数年前にスクールFCの小6のスーパー算数で教えた女の子でした。大人っぽくなっていたのでわからなかったのです。学校で希望者のみ参加する海外体験で来たそうですが、花まる学習会という子どもたちのビブスを見て驚き、嬉しくなって、もしかしているのではと思い、見まわして探しだしてくれたのだそうです。大変ありがたいのですが、「もう子どもじゃないんだから」と諭して大笑いしました。「スー算は厳しかったなあ。でもおかげで、数学だけはトップで行っています!そこに数学の先生いますよ。ね、先生」と引率の男性教師を紹介してくれました。
そうこうしていると、もう一人、男の子がツカツカと歩み寄ってきました。彼は小6のときに「高濱先生と行く修学旅行 知覧鹿児島編」に来ていた子で、同じ高校に通っているのです。「あれは、本当にめっちゃくちゃ楽しかったです」と言ってくれ、民泊したね、牧場でライブやったねと、思い出話に花が咲きました。
26年目のサマースクールが終わりました。今年も、なるだけ多くの子どもたちと会いたいと、結構な強行軍で車を運転して回りました。クワガタ体操をし、歌い、一緒に食事をして話をしました。おもしろかったのは、ある宿で「ジイジのお兄さんに似てる」と言われ、また別の宿で「死んだジイジに似てる」と言われたことです。いよいよジイジ段階が来ました。そういう真横で話すからこその関わり合いも愉快で楽しいのですが、冒頭の例のように、直接教えた子や「修学旅行」や「世界を知る旅」「サバイバルキャンプ」「沖縄」のような、まとまった時間をずっと一緒に寝泊りして過ごした子たちとは、やはり絆が深くなるなあと思いました。
そういう意味で、今年の修学旅行熊本編は、記念すべき回でした。子どもたちに付いた5班の班リーダー全員が、直接関わった教え子たちだったのです。中でも3人は、9年前の「第一回高濱先生と行く修学旅行」に来た子たちです。昨年も一人来ていたので、18人しかいない参加者のうちすでに4人もサマーリーダーになって戻ってきてくれたわけです。
旧来の野外体験メインのコースと一線を画して、人生を語り合う高学年向けコースを作りたいと思いついて、当時始めたのでした。キセキをテーマソングにして合唱しながら、私自身が運転するマイクロバスで阿蘇や水俣や人吉を回りました。私が泳いで育った球磨川の支流胸川では、水中を泳ぐすばしこいイダ(ウグイ)を生まれて初めて手づかみで捕まえて、「故郷の神様が、『それでいい。そのまま行け』と言っているように感じました」という意味の文章を、巻頭文に書いたことを覚えています。
バスの中の一体感が素晴らしく、これは意義深いよなという手ごたえを感じていたのですが、その証明のような今年のリーダーたちでした。一人がその時の写真を持ってきてくれたのですが、この子たちがこんなに立派になったんだなという感慨で胸がいっぱいになりました。また、写真には、リーダーで来ていた当時大学院生だった川島慶(現:花まるラボ代表)がいました。彼はここでの数日の体験に感動して、内定していた大企業を蹴って花まるへの入社を決めてくれたのでした。その後花まるラボを立ち上げ、Think!Think!でなぞペーを世界に認めさせてくれたのですから、いろいろな意味で濃かったと改めて思います。
第一回熊本組の3人は、当時小6・中1・中2だった子たちで、写真の中にある9年前のあどけない顔を見て、参加した子たちが「かわいいー!」とはしゃいでいました。5人とも素晴らしく成長して、何も言わなくても動いてくれるし、班の子をとことんかわいがってくれ、文句なしのリーダーぶりだったのですが、その中で一人の女の子の変貌ぶりには驚きました。小さい頃から固すぎるくらい生真面目で前に出ないタイプだったのに、大学生の今、こぼれるばかりの笑顔と大仰なくらいの表情で、子どもたちを引きつけ笑わせ魅了し続けていました。
聞くと、中高一貫校に行って、6年間演劇部で活動したことが自分を変えたと言っていました。今、花まるの中でも「演劇×教育」を追求していますが、モジモジくんが人前で堂々と表現できるようになる演劇の効果を見事に具現している事例が、教え子の中から登場したのでした。
そんなメンバーで開催したことを祝福するように、台風が予想されたコースを外れてくれて、阿蘇中岳火口・草千里・阿蘇ファームランド・被災地である益城町・熊本城・嘉島湧水公園天然プール・人吉城址・万江川とすべての行程が晴れでした。最終日も予報は雨だったのですが、「特急かわせみやませみ」という「ななつ星」のミニ版のような列車に乗っているときだけが雨で、降りて熊本市の町探検をするときは快晴でした。またまた故郷の神様に「このまま続けなさい」と後押しされているように感じました。
嘉島湧水プールや川遊びでの躍動など書き尽くせないほど思い出がありますが、最も印象深かったのは、夜の語り合いの時間でした。男女3名ずつの混合班を作って、子ども世界で起こるイジメや意地悪やいやなことをする人がいるというような状況を設定し、そこでどういう言葉を言えばよいのかという、ポジティブワード大会をしました。子どもたちは本当に真剣に語り合っていて、全体がピンと張りつめた空間でした。そのおかげか、翌日からの班行動でのぶつかり合いの場面でも、お互いに良い言葉を探して言おうと努力していました。毎日少しこういう時間を持つだけで、子どもたちの心が整頓されるなと感じました。
日記も没頭して書く子が多く、ある女の子は、被災地見学で案内してくれた方に「東京にいる私たちが力になれることはありますか」と聞いて、「2年たって忘れられているから、そのことをみんなに伝えてほしい」と言われ、帰京後みんなに話したいと思ったということを書いていました。私たちが準備した以上のこのような主体的な行動を知ることができるのも、子どもとドップリ行動をともにするからです。子どもたちと深く関わり合えるこのコースは、これからも続けていこうと思います。
花まる学習会代表 高濱正伸