『恋愛への道』2018年12月
御茶ノ水駅前に、お茶の水教育カレッジという場を創設しました。コンセプトは「大人の教育学部」。子育てを学びたい親、保護者対応などを含めた現場実学を学びたい先生方、経営や語学や心理など第二の学びを得たい大学生・社会人など、様々な学びの要求に応えられることを目指しています。国がリカレント教育と称して、社会人の学び直しを後押ししている時代でもあります。やる以上、意味ある存在になれるよう、頑張ります。ちなみに、このために会社を作ったのですが、社長はまだ大学4年生です。高い志とバランスの良い人柄を感じて、抜擢しました。本格的な稼働は、これからですが、応援していただきたいし、レンタルスペースとしても運用しますので、ぜひご利用ください。「教育」というテーマさえ盛り込まれていれば、どなたでも使えます。
閑話休題。そのお茶の水教育カレッジで講義してほしい実力派の経営者と対談していたときに、おもしろい話題になりました。彼曰く、ヒューマンスキルを伸ばす方法として強力なものは3つあると思う、と。その第一に示したのが「恋愛経験(それも単にモテるのではなく、振られること込み)」でした。ちなみに他の二つは、「チームスポーツ」と「BtoB(対個人ではなく対企業)の大きな金額の営業経験」なのですが、百戦錬磨で実業の世界の裏も表も知り尽くした方が、多くの会社と会社員を見て来た結論として、恋愛を持ち出してきたことは、興味深いことでした。
それは、対象の社会人を見ていて、人間力溢れる魅力的な人だなと思ってインタビューしてみたら、分厚い恋愛経験をしてきたからなんだなと感じたり、自信の無い人だなと思って聞いてみたら、恋愛経験が希薄だったんだなと感じた、ということが相当回数あったということでしょう。彼の口から「恋愛」と語られたときには「えっ?」と思ったのですが、しばらくして、奥深い洞察力だと納得しました。
考えてみれば本当にそうです。何事も、テキトーな集中や行動では、人は成長できません。熱中して必死な状況での挫折や困難とその乗り越えた経験によって、器が広がります。人と人の関係において、恋ほど切実なものはありません。「一緒になれないなら死ぬしかない」というくらい、心を預け夢中になる。そこでは、求め合う一方で、だからこそ激しくぶつかり合いもし、思い通りにわかってくれない相手の心を真剣に想像します。小学生のように「女子ってバカだよね」「男子ってガキだよね」と、つるんで言い放って自分たちのアイデンティティを確認するというような、浅い世界認識とはかけ離れた、言わば心の一人旅をしてのたうち回り、道に迷いながら相手の気持ちを探らねばなりません。
私も、思い返せば、高校でお付き合いした彼女のおかげで、ヒューマンスキルは、10級から初段くらいまで引き上げられた実感があります。私の場合は、精神年齢が20歳くらい上の個別家庭教師の授業を受けたような印象でもありますが、人生について教えられ、女性の感性をたたき込まれました。彼女はすごい人で、イケメンで人気のある数名の男子については、「まあ、観賞用だよね」と関心を示さなかったり、全学年生徒500人くらいいる中で、「AくんとBくんと高濱くんかな、おもしろいのは」とあげた3人が、のちにテレビなどで扱われる人になったりして、見る目は確かでした。嫉妬深くすぐ拗ねる私をなだめ、理屈っぽく自分中心に生きている私に、何度も何度も「それは違う。女の子は違うよ」と教え続けてくれました。
幼い頃は、背が低く頭がうすら大きく鼻はぺしゃんこで、アトピーだったのかいつも掻きあとで真っ赤な皮膚をして、外見という外見にコンプレックスがあったし、3月生まれもあって運動で遅れを取っていたし、父の膝は100%弟に取られ「父親は弟の方が絶対かわいいんだ」と思い込んで育ったせいでしょう。自分は体が弱くて醜く魅力に欠ける人間だと思って生きていました。しかし、彼女一人と出会ったおかげで、世界はバラ色になり「俺もモテるのかも」と信じられるようになりました。背も遅ればせながら伸び、高校3年間野球をやって体力もついてきたところで、彼女と出会い、対人、特に対異性に、大きく自信がついたと思います。
さて、成人の日の調査で、「誰とも交際したことがない」という新成人が、半数近くになる時代。青年期以降に「自分でもなんとかやっていけそうだぞと肯定感をつかむチャンス」または「モテ側に変身するチャンス」が訪れたときに、その機会を逃さず、好きな人を口説きお付き合いできるようになるために、わが子が幼いときに親としてどう準備しておけばよいでしょうか。基本的には、「育てる」のと、「機会に放り込む」という二つの視点があると思います。
育てる部分は、例えば「モテる要件」を列挙してみるとわかりやすいでしょう。「一生懸命である」「得意なスポーツがある」「楽器が弾ける」「他人を思いやれる」「たくましい」…。たちまちいくつも書き出せるでしょうから、それを家のどこかに貼っておいて、家族で時々話題にするのも良いでしょう。子育てを楽しみながら、その一つひとつがわが子に身についていくことを、意識しているだけでも効果はあります。特に強調したいのは、笑わせ上手は、常に人気があるということです。大人になっても大きな力になります。笑いを大切にする家庭文化は効きますし、うちは夫婦ともどもそういうタイプでないという場合でも、「たこマン(一枚の絵を見て、次のシーンを想像し、誰よりもおもしろいことが言えた人が優勝という、低学年コースで使用している教材)」を家庭でやるのは強力な具体策です。ぜひお試しください。身近にある写真や記事などでも、応用は簡単です。
「機会に放り込む」というのは、固定化された学校の人間関係にとどまらず、花まるのサマースクールのような、「新しい人間関係(できれば、異性・異学年など多様な人がいることがよい)」に放り込んであげることです。長年見てきて、おとなしくて地味な長男くんが、継続的に参加することで自信をつけ、6年のときには見事にリーダーシップを発揮し、女子に憧れられることに成功した、というような物語を何度も目撃してきました。山村留学や海外経験なども含め、幅広い経験ができる機会に送り出すことは、親として勇気も必要ですが、価値あることだと思います。
花まる学習会代表 高濱正伸