Rinコラム 『創作レシピを、教育者の視点でデザインする』

『創作レシピを、教育者の視点でデザインする』2018年8月

 あるとき私は、アート(作品の創作)は、作品を創ることそのものや、芸術的センスを磨くこと、技術の習得が目的ではなく(結果としてそれらのスキルも伸びてはいきますが)、子どもたちが自分らしく生きていくことを奨励するための、最も有益な手段のひとつなのだと気がつきました。そのことに気がついてからは、すべての創作レシピの提示を、そのような教育的意義のもとデザインしています。
 子どもたちが、人とは違う自分のユニークさを自覚したうえで、その自分らしさを自由に表現してよいのだということ、それは等しく尊さを持って認められるのだということ、自分を大切にする経験があるからこそ、他人を尊重することができるようになるのだということ。あなたはそのままで素晴らしい。人生は有限であり、それをどうデザインするかは、あなたが決めることなのだということ。

 人とあまりにも違う感覚を持っていた幼少期。人はこんなにも一人ひとりが違っているのに、なぜ同じを求めるのだろう、なぜ違うことを許されないのだろう。ありのままの自分を表現することが、大切にされないことへの怒りと不安。家庭という安心と安全に満ちていた場所から、はじめて外の世界(学校という社会)に出たときに感じた、自分自身への嫌悪と恐怖の入り混じった、忘れることのない憤り。
 その経験は、のちに重要な視点を得るために、私にとって必要な出来事だったのだと今ならわかります。絶対にそのような気持ちを、どの子にも抱かせたくないという、教育者としての確固たる指針の土台になっているからです。

 才能が抜きんでている子や、感覚が鋭く独特の世界でほかの子と違った能力を持つ子が、周囲に理解されずにいることは社会的損失です。自分というものを信頼し、安心して自分を表現していける世界を護れたら、自律的で創造的な知恵が生まれていく、豊かに発展する国の土壌となるはずです。
 教育とは、子どもの社会化の過程。彼らが自分の能力を発見し、将来自分に最もふさわしい社会的地位を得るためのプロセスなのです。人は自分の能力があるがままに認められ、それに相応しい場を社会の中で得てはじめて大きな幸福感を持って生きていくことができるはずです。社会はそうした幸福な個人によって支えられます。
 すべての子どもが、本当の幸せを自分の手でつかめますように。
 
井岡 由実(Rin)