こころと頭を同時に伸ばす 幼児期の子育て5
『じぶんが何かをしたい、という 湧き上がる気持ち』2019年10月
子どもあるある。子どもには、周囲のたくさんのモノの中から、自分にとって意味のあるモノを見つけ、ため込む習性があります。大人にとってはガラクタのように見えても、子どもにとってはどれも大切な宝物。それがどんな意味を子どもにもたらすかはわからないし、たぶんもたらさない。ただこのことは、取り巻く多くのモノの中からかけがえのないモノを「自分で」選ぶ基準を子どもの中に作るのでしょう。そしてそれを大切にすることと、決別する経験も。
小さな日常の中に、ふと心が動く出来事が、誰にでもきっとあるはずです。「自分が何かをしたい」という興味関心、内側から湧き上がるもの。「やろう」でも「やらなければ」でもない、「やりたい」という気持ち。「誰かにほめられるから」ではなく「何かを得られるから」でもない、なぜかわくわくする感情を、子どものこころに生み出せるかどうか。
大人のこころが動くことに、子どもたちは敏感です。内的な人間の成長としての「興味、関心」、内側からの気持ちのことです。大人が集中して何かに取り組んでいる様子に、子どもは繊細に反応します。彼らは無意識に、そのような大人を望んでいる生きものなのです。
家の外ではほとんどしゃべらず、他の子どもたちと関わらず、ひとりでただ黙々と創作し続けていた幼児期、私の母は部屋の一角にビニールシートを敷いてくれていました。いつでも絵の具を出して汚してもいいように。どの家にもそういう場所があるものだと思って大人になり、そのことが当たり前ではなかったと気づいたのは、幼児を教える側になってからでした。母は、私が好きで夢中になっていることを守ろうとしてくれていた。そのことに思い至ったとき、母の愛を感じました。
好きなことをたっぷりやれる子は変身します。知能の発達とは、素朴な疑問や、驚き、そして納得といった、いくつもの没頭経験の連続の果てに成り立つからです。彼らは「やりきった」後、外の世界へと挑戦する力を発揮していく。
子どもたちが自分だけで没頭できる濃密体験を持てているか、ぜひとも気にしてあげてください。そして、大人であるあなた自身のこころが動くことについて、いま一度自分の胸に語りかけてみてください。遠回りのようでいて、そのことは子どもたちのこころと頭を育てることにつながります。人間とは、生きている間中ずっと、自分で自分を育てていくものだからです。みなさんのこころが躍動することは何ですか?
どの子も、自分が本当にやりたいことを知っている子になれるように。本当の「関心」とは、人から与えられないものなのですから。
井岡 由実(Rin)