『自分の意思で自分の心を満たす』2021年6月
「えっ、それは…(いいの)!?」
「ちょっと待って、あ…(ダメ)!」
親子での創作ワークショップでのこと。お母さんから思わずもれた言葉です。
「こうでなくっちゃ」と考える大人と違って、子どもたちは「ああでもあるし、こうでもある」という視点を、自然に持っている存在です。
「必ずしも答えはひとつではない」という見方を持っているかどうかは、子どものそばにいる大人にとって、とても大切な視点です。
「そうだね、それもいいアイディアだね」
「いいね、やってみてごらん。どうなるだろうね?」
いつものように、子どもたちに答える私の言葉を、同じ空間で聞いていたお母さんたちから、驚きの言葉をたくさんもらいました。
「隣で子どもが、じゆうに、楽しそうに作っているのを見て、思わず『あ!』とか『えっ?』とか言いそうになるのに、遠くにいるりん先生が、そんな短い言葉がとっさに出るよりも早く、『いいね!』『そうだね!』と、心が前向きになるような、あるがままを受け入れる言葉をかけてくださっていて、子どもたちがどんどん前向きになる理由がよくわかりました!すごく楽しくて、たくさん褒めてもらって、子どもに戻ったような、最高の日でした!」
「やってみると、予測がつかない、何ができるかわからない。こうじゃなきゃいけないっていうのがなくて。思ったことを口にすると、先生が同調してくれるやりとりが、うれしくてとても心地良かったです。」
「そこで止めれば、きれいに仕上がるのに」というのは大人の感覚です。「きれいな色」というのは、大人の勝手な価値観を押し付けているに過ぎないのです。
大人は、知識や経験がある分、どうなるかが想像できて、見通しを立てる。しかし、子どもたちにとっては未知の世界。「こうしたらどうなるのだろう?」「もっとやってみたい!」その結果、作品としての見た目はぐちゃぐちゃかもしれません。それを見ていたお母さんたちは、苦笑い。
けれども、よく見てみてください。子どもたちの表情は満たされて、すっきりしているのです。
心のままに手を動かし、その瞬間の素直な感情を表現できる環境を守ってあげられるかどうか。他人の意思ではなく、自分の意思で自分の心を満たす、そんな経験を、幼児期に十全にできているかどうかは、その後の彼らの生き方、しあわせの価値基準に、大きな影響を及ぼすはずです。
井岡 由実(Rin)