『どうまねればいいかを見せる』2022年9月
子どもは「まねる」生きものです。
お母さんの口ぐせであろうセリフを作文で書いたり、もっともらしく話したり。お姉ちゃんが弟に対して話す言い方が、きっとおうちでいつも自分が大人から言われている言葉なんだろうなあとクスッと笑ってしまったり…。
家庭の様子が透けて見える、そんなおかしくってたまらない経験を、子どもとかかわる大人であれば一度はしたことがあるでしょう。
脳神経細胞のミラーニューロンは、他人の行動を見ていると、まるで自分がその行動を行っているかのように反応するそうです。スポーツや音楽の世界でも、プロの動きを間近で見るだけで、私たちの脳細胞はそこからすでに学んでいる。
小学生の集団を見ていても同じです。3年生が靴を揃えると、初めて教室にきた1年生も同じようにします。逆上がりができない子が、隣でくるりと回る友達を見た次の瞬間、できるようになるということもありました。
小さな赤ちゃんでさえ、大人のしぐさを本能的にまねますし、「おままごと」は、家族のさまざまな人の役割を「まね」して演じることでそのロールモデルを学んでいる。
まねることは、学ぶこと。子どもたちにとって、最も根源的で本能的な学びが、「まねる」ことなのです。そう考えると、子どもたちにとって良い教育とは、まず大人自身が「子どもにまねられるに値するように在る」ことなのでしょう。
「ホラ、ちゃんと挨拶して!」「そんなときは、何ていうの!」と子どもに言う前に、わたしたち大人が、どうまねをすればいいかを、ちゃんと見せつづけてあげる。
「わたしの振る舞いは、子どもが見て、まねるに値しているだろうか」「昨日の私よりも、今日の私は成長しているだろうか」子どもを前にするとき、私はいつもこのことを、自分の胸に問いかけます。
すごく気持ちのいい挨拶をする子だなあと思っていたら、お迎えのお父さんがハキハキとお返事される方だったり、この子は鞄にいつも本が入っていて、本好きなんだなあと思ってみていたら、お迎えのお母さんも本を読みながら待っていたり。
私たちが想像する以上に、子どもたちは周囲の人の行動を見て、まねをします。その人がいまをどんな気持ちで生きているのかも、本質的に見抜いています。そして、いつも成長する心を持ち続ける人間に、ついてきてくれるのです。
まねられる大人であるために、「良いお母さん」を演じる必要はありません。「ありのままのあなた」が今日一日を楽しんでいたら、それだけで子どもたちは、たくさんのものをあなたから受け取っていきますよ。
井岡 由実(Rin)