『男の子よりも強くなりたい。』2019年10月
あっという間に過ぎ去っていった夏休み。今年もサマースクールに参加してまいりました!コースは、サムライの国。太ももには紙風船をつけ、手にはスポンジでできた刀を持ち、軍に分かれて戦います。紙風船が割られてしまうと負け。つまり、紙風船は“命”です。軍には総大将というリーダーがいて、総大将が倒されてしまうと、軍全員が負けです。総大将は大人が務める時もあれば、子どもが務めることもあります。最後に天下統一戦という戦いがあり、そこで勝った軍が優勝です。
3年生Mちゃん。彼女は、サマースクールに参加するのは2回目でしたが、サムライの国に参加するのは初めてでした。「なんでサムライの国を選んだの?」と聞くと、「男の子よりも強くなりたいと思ったから!」とのこと。「一人でも多く倒したい!」と言っていました。
最初の合戦は、天候が悪かったため、体育館の中で行うことになりました。一戦目、Mちゃんはあっけなく倒されてしまいました。「こわくて攻められなかった」と一言。割れた風船を持ちながら、涙を流していました。悔いが残る戦いだったようです。
二戦目。彼女の目つきは少し違いました。こわさから腰が引けていた彼女とは大違い。悔しい気持ちを糧にして、刀をしっかりと構え、どんどん前に攻めていきます。
「パンッ」と音がしました。笛が鳴り、一時休戦。敵大将の風船が割れたのです。そして割ったのは、なんとMちゃん。すぐに私のもとに走ってきて、「私、総大将の風船を割ったの!」と満面の笑みで教えてくれました。初戦で怖気づいていた彼女はもういません。「なんで割ることができたの?」と聞くと、「周りの子たちが一緒に戦ってくれたから勇気を出せた」とMちゃんは言いました。
次はいよいよ天下統一戦。これまでの戦いは、前哨戦です。天下統一戦で多く勝った軍が優勝なので、子ども達の勝利への思いは最高潮に達していました。天下統一戦は、全部で二戦行います。一戦目は、大人総大将を倒すことができれば勝利。しかし、隙をつかれ、負けてしまいました。二戦目は、子ども総大将。Mちゃんは立候補しました。「もしも負けてしまったら、周りの人から責められるかもしれないよ」と言われても、「やる!」とみんなに宣言。彼女は、子ども総大将を務めることになりました。
「絶対にMのことをまもるから!」と護衛隊が彼女のそばにかけよります。Mちゃんは決して一人ではありません。一人一人が「勝ちたい」と願い、戦っていました。
しかし、戦いは不利な状況に。他の軍を攻めていた攻撃隊が次々と倒され、Mちゃんと護衛隊が敵に囲まれてしまいました。彼女は冷静に考えています。そして突然敵に向かって走り出しました。敵の輪が崩れ、Mちゃんを追いかけます。広い草原を無我夢中でかけめぐりました。「私は倒されてはいけない」そんな思いからMちゃんは一人で走り抜けることを選んだのです。とても勇敢でした。
彼女は再度敵に囲まれ、倒されました。その瞬間泣き崩れたMちゃん。「みんなごめんね。勝てたはずなのに。本当にごめんね」嗚咽を漏らしながら、言っていました。その姿を見て、仲間から出てきた言葉は「ありがとう」でした。
「男の子よりも強くなりたい」と言っていたMちゃん。しかし、その目標を達成するためではなく、いつの間にか仲間のために戦っていました。彼女がこの夏得たものは、仲間を思う尊い気持ちでした。
花まる学習会 太田優美