『泣き虫からヒーローへ』2020年7月
以前、東京ディズニーランドを楽しみ尽くして帰りに爆睡していた息子。来月でいよいよ5歳になります。「布団に置いても泣かなくなったのはいつからだろう?」「そういえば公園の小さいボルダリング、あと一歩で諦めていたのにもう登れるようになっていたな。」いつの間にか訪れる息子の成長にふと寂しさがこみ上げてきました。「ブランコ後ろから押してあげられるのはあと何回なのだろう?」「抱っこできるのはいつまでかな?」息子と過ごす今を大切にしようと寝顔に誓った次第です。
種は芽が出て芽は伸びる。そういう風にできている。
私はこの言葉が好きです。息子が何かできないことがあって「大丈夫かな?」と不安になるとき、この言葉を思い出すようにしています。前回のサマースクールでもたくさんの子どもたちの成長に心打たれました。
これは、6年生のMくんのエピソードです。彼はサムライの国に4回連続で参加。初めてサムライ合戦に参加した3年生の頃、合戦の激しさに、前に出ることができず「怖い」と涙していました。一人も倒すことができなかったのですが、それでも「サムライにまた行きたい」と強くなることを諦めませんでした。
次に会ったのは彼が5年生、サムライ合戦への参加が3回目のときです。刀が似合う少年になっていました。不器用ながらも合戦中、懸命に前に出て戦う姿は眩しかったです。変顔のおもしろさを競うレクでは宿で一番になり、大人しいMくんが一躍ムードメーカーとして輝いていました。そしてサムライとして迎えた4回目の夏。「ルパンの五ェ門みたいになりてぇ」と、6年生となった彼の姿がありました。今まで上の子の背中を追っていたMくんも、ついに最上級生です。この一年でさらに背が伸び、余裕すら漂っていました。バスの中で一人ひとりに目標を聞いていくと「50人たおす!」と言い切ったMくん。湯沢までの道中「強い人は、静かに忍び寄って倒すといいよ」と下級生にアドバイスもしていました。
そして、いよいよ始まったサムライ合戦。常に最前線に陣取り、どんどん倒していきます。強い。3年の頃とは、まるで別人。一番強いと恐れられていた相手リーダーにも果敢に攻め、見事倒すこともできました。さらに他軍の総大将をも打ち取り、Mくんは天下統一(優勝)にも大貢献したのです。
彼の存在は宿の中でも光っていました。準備に手間取る低学年の子たちをまるで弟のようにサポートしてくれていたのです。「おもしろい顔選手権」では2年連続優勝。おもしろいしかわいがってくれるMくんにみんなが懐いていました。
最終日の表彰式。「次は、MVPの発表です」と私が言うと、どこからともなく「M!」「M!」と、Mコールが。やがてそれは大合唱へとなっていきました。60人の子どもたち全員が彼の名前を呼んでいるのです。その光景に、自然に涙が出てきました。そして、子どもたちに伝えました。なぜMくんがMVPなのかを。「3年生の頃、泣いていた彼が、一人も倒せなかった彼が、諦めずにがんばり続けた結果が今なんだよ」と。その後、刀のサイン会では、Mくんの前に長い行列ができました。「ぼくも、強くなりたい」と話す一年生に、「うん、がんばれ」と励ますMくん。彼がここまで強く優しくなれたのは、きっと今まで出会ったリーダーや上級生の存在があったからではないでしょうか。
野外体験の醍醐味は、人対人の生身の人間関係です。「こんな人になりたい」という憧れが、その子の中に『かっこいい人って、こんな人』という価値観や『自分もこうしていきたい』といった意志を育んでいく。私はそう考えています。Mくんからバトンを受け取った子たちが、これからどんな素敵な人になっていくのか。次のサマースクールがまた楽しみです。
花まる学習会 臼杵 允彦