花まる教室長コラム 『わが子にかける魔法のことば』箕浦健治

『わが子にかける魔法のことば』2022年12月

 先日、テレビで芸人の劇団ひとりさんが お子さんの話をされていました。
「息子が牛乳をこぼしたときに、すぐにティッシュペーパーで拭いたのでほめたんです。そうしたら、翌日から牛乳をこぼして拭くようになったんです」
という話でした。とてもかわいらしいエピソードでした。それを聞いて、やはりそうかと思いました。

 娘を育て、授業や野外体験でたくさんのお子さんをお預かりしたなかで感じている大切なことは、「普通にできていることを認める、ほめる」ということです。もちろん、失敗したときなどにこうしたほうがいいと伝えることは重要ですが、それ以上にできていることを「認め・ほめる」ということが大切です。

 サマースクールで100人の子どもが外の活動から戻ってきたときに、暑さや疲れもあり玄関の靴がバラバラになっていたことがありました。その段階で子どもたちを呼び戻して、「靴を揃えなさい!」と言うこともできました。バラバラの靴を見て落胆しているスタッフもいたので、「大丈夫、ちゃんと伝えれば明日はきれいに揃えてくれるよ」と伝えました。その日の夕食の前に、子どもたちに私の気持ちを伝えました。「夕方、外から戻ってきたときに玄関に行ったら、靴がバラバラになっていました。でも一足だけ、きれいに揃えてられていた靴がありました。それは〇〇さんの靴です。その靴が輝いて見えたんだ。そして、本当に嬉しかった」と。翌日、外の活動から子どもたちが戻ってきたあとに玄関で見た光景は、いまでも忘れることはありません。100人の子どもたちの靴がきれいに揃っていました。その日の夕食の前に、子どもたちに伝えました。「今日はとても嬉しいことがありました。玄関の靴が全部、輝いて見えました。本当に嬉しかったんだ。みんなありがとう」

 このコースが終わり、保護者の方からのアンケートには「靴」と「揃える」という言葉とともに、感謝の言葉をたくさんいただきました。

「サマースクールから戻ったわが子が疲れてクタクタなのに、わざわざ荷物を置いて靴を揃えたんです。その姿を見て、泣きました。本当にありがとうございます。」

「家に帰ってきておもしろかったことを聞くと、私の手を引いて玄関に連れていき、揃っている靴を指さして、『輝いているでしょ!』と言いました。誇らしげなわが子の顔を見て、成長したなと感じました。それを見たパパも、慌てて靴を揃えていました。そして三人で『輝いているね』としばらく眺めていました。」

 できたことをほめて、認めてあげること、できなくても気づかせてできたらほめてあげること。日常のなかで、できて当たり前のことを改めて認めてあげることで、自信やほかのことを頑張る原動力になります。なかなかできないことでも、一回できた瞬間に認めてほめてあげることがポイントです。自分で起きる、何も言われなくても歯を磨く、「いってきます」と言う、「ありがとう」と言う、下の子の面倒を見る、ごはんの時間になったらテレビを消す、学校に行く、洗濯物を洗濯かごに入れる、など、すでにできていることをぜひ言葉にしてほめてあげてください。「最近、言うことを聞かなくて…」という相談を受けることがあります。その多くは、できていないことだけを指摘し、叱っているケースです。お預かりしているお子さまやわが娘二人にも毎回伝えていることは、「できないことがあるからダメではない、忘れてしまうからダメではない、必ずできるようになるから、忘れないようになるから、そのときを楽しみにしているね」と。

 この言葉は魔法のように子どもたちに残っていきます。そしてできるようになったときの、あの嬉しそうな笑顔を、これからも見届けていきたいと思います。

花まる学習会 箕浦健治