花まる教室長コラム 『遊ぶように学んだことで』岡本祐樹

『遊ぶように学んだことで』2024年12月

 中学3年生のMくんからメールが届きました。
「Mです。お久しぶりです! 第一志望に合格しました! 春から慶應義塾志木高等学校に通います。自由な学校なのでいまから楽しみです。カモンへ報告したかったので、メールしました。」
 Mくんとは、小学1~4年生まであざみ野アルゴクラブにて一緒に過ごしました。
 入会当初はまだまだ思考の精度が高いとは言えないものの、授業をとても楽しみ、とにかく笑顔で問題に挑む姿が印象に残っています。楽しんでいるからこそ、試行錯誤のスピードもあり、一つの問題をいくつかの視点から考えられ、うまくいくかわからないけれど挑戦してみる! という前向きな姿勢で取り組んでいました。
 2年生のときには、問題の解き方を発表する際に誰も見つけられなかった視点を言うことができる、ほかの子のお手本になるほどの実力をつけていきました。3年生ではアルゴクラブ全国大会(日本全国の加盟塾代表選手による大会)に出場する代表になったり、6年生の最後の大会でチーム戦優勝の最後の1ピースになったり……。いろいろな逸話を残していきました。
 Mくんの力が大きく花開いたのは、アルゴクラブ5・6年生コースに通いはじめてからでしょう。当時お茶の水でしか開講していなかったアルゴクラブ5・6年生コースに通うために、Mくんはお茶の水教室へ移動しました。私もお茶の水エリアへの異動があり、年に何回か顔を合わせていました。
 お茶の水でのMくんは「アルゴゲームでのアタックが待てない子」として話題に。アルゴゲームは、手札のカードを当てあうボードゲーム。Mくんは20秒の制限時間をじっくり使って考えアタック(カードを当てる)しよう、すぐにわかってもアタックしないでね、というルールを設けても、うっかり5秒くらいでアタックしてしまうそう。お茶の水教室長のタッキー曰く「カモンのアルゴゲームのときと同じだよね」とのこと。時間を待たずガンガンアタックする私の姿を、子どもたちに見せていたのが移ってしまったようです。そんな姿をほかの子からツッコまれつつも、それがMくんらしいね、と気に入られているようでした。
 そんな輝かしい活躍の裏で、Mくんは思い悩んでいました。「小学校がおもしろくない」。小学校は、わくわくする授業ではない、小学校がアルゴクラブみたいだったらいいのに。考えることを楽しみ、その思いをみんなと共有しながら、遊ぶように学びたい、というMくんらしさが発揮できない。
 お母さまは卒業時にも、この合格報告のときにも、
「小学校はずっとつまらないと言っていて、アルゴクラブがあったおかげで何とか乗り切ったようなものでした」
とお話しされていました。
 そんなMくんに、ぜひ高校受験の話を聞かせてよ、とお願いしました。
 なぜ慶応志木に? と聞くと、「あの……自然が、大きいんですよ」という熱のこもった第一声。敷地が公園のごとく広くて、カブトムシもいるらしいのです。熱く語るMくんは、小学生の頃から好きだった卓球部と生物部を兼部するんだと意気込んでいました。
 面接試験では、そんなことも聞かれたの? という話ばかり。義務教育に追加・削除する教科、ピカソの絵はなぜ変化したのか、円周角の定理を知らない人に説明しなさい、30年後に住んでいたい家の間取り……。
 よくそんな質問に答えられたね、と言うと
「アルゴクラブの5・6年生コースって、自分の意見をたくさん言うじゃないですか。あれで慣れたというか、土台になっているんだと思います」
 自分の意見を伝え、人の意見を聞き、議論を深める。それが5・6年生コースの醍醐味ですが、こういう即応性をもった力になるとは。それもこれも、Mくんが「楽しみつくしてきた」からこそでしょう。考える、人に伝える、それが楽しい。それが自分だけでなく、みんながそう思っている環境にいられたことが、Mくんの力をさらに伸ばすきっかけになっていました。
 何か一つ拠りどころがある、ありがたいことにその一つにアルゴクラブがなれていました。いま通う子どもたちにも将来「あのとき、花まる・アルゴに通っていてよかったな」と思ってもらえるように。そのためにいま、ただひたすらに楽しんでもらいたいと思います。

花まる学習会 岡本祐樹