囲碁の効能④ 決断の質

囲碁AIとの向き合い方

2019年11月29日、韓国のイ セドル九段が引退しました。世界最強と言われた実力をもってしても「囲碁AIにはどれだけ努力しても勝つことができない」と。2016年に行ったAlphaGoとの五番勝負では1勝4敗、囲碁AIの台頭を決定づけた出来事でもありました。

同じ日、10月に史上最年少(当時19歳)で囲碁の7大タイトルの一つである「名人」位を獲得した芝野虎丸名人が、井山裕太四冠から「王座」のタイトルも奪取し、20歳で二冠となりました。兄もプロ棋士である芝野兄弟は「アルファ碁Zeroの衝撃」という書籍を執筆しています。

今や囲碁界にとって切っても切れない存在となった囲碁AI。随時解析を行い、次の着手候補をいくつか表示してくれます。それぞれ勝率何%になるのかも表示され、カーソルを合わせるとその後10手くらいの最善着手手順も表示されます。それが人間の理解を超えた着手であったり、尋常ではない速さで導き出されたりするものですから「囲碁AIには勝てない」と思うのも無理はないのかもしれません。

だからと言って、囲碁をやる意味がないとは思いません。競技者としては、神のごとく高き壁を越えようと思うと、心折れる思いもあるかもしれませんが、囲碁学習においてはとても良いツールなのです。子どもたちの実力がついたら、積極的にGONOUの授業にも活用しようと考えています。

子どもたちの「決断」

AIが熟慮して着手を導き出すのに対して、子どもたちはまだそこまで熟慮できているといえないでしょう。大人からすれば「もうちょっと、よく考えてから打とうよ…」と思ってしまうくらい、ポンポンポンポン次の手を打っていきます。

大人にはまねできません。むしろ先日の「親子で囲碁体験!」の際に大人VS子どもで連碁を行ったときなんて、子どもは「ここだ!」とバシッと決めて打つのに対して、大人はウンウン考えた後に、おそるおそる「あの…ここで良いですかね…?」と私に確認してくるほど、決めるということが容易にできなくなっています。結論としては「やってみないとわからないから、そこに決めて打ちましょう!」ということなのですが、できない。過去に大人2人に初めて囲碁を教えたときは、子どもなら3分で終わるところを30分かけて対局していました。

容易な決断をするメリット

果たして、そこまで悩んで時間を使って、その時間は有意義なものだったのか?正直に申し上げれば「大したことはない」のです。たった一局の、たったの一手から、良し悪しを感じることは、特に初心者の内ではできないものです。その先の分岐を想定しきれることもなく、別の手だったらどういう展開になるかも想像できないから悩んでいるのです。時間をかけたのに、大した実りはない、端的に言ってしまえば「時間がもったいない」。

「容易な決断」は、子どもだからこそできることで、だからこそ子どもたちは成長が早いとも言えます。何事も決めなければ、そのあとの確認も実感もないのです。たった一回を吟味するよりも、初心者の内はたくさん対局して「実感」をためることがまずは大事です。

GONOUの教室では、それこそ「そこに打つか~!」という場面に出くわします。子どもにとって「そこはよくないから変えなよ」と言われるのは気持ちが良くないもの。気持ち良く、自分の決断のままに行動して、その結果を体感する。そうして同じ状況が繰り返されると「これはいいな」「これはよくないな」と自分で気がつくようになる。誰かから教えてもらうよりも、自分で気づくほうがよっぽど質の良い学びになります。そういう感覚がたくさん身に付くと、先を読む力がついてきて、一手の決断に時間をかけて考えられるようになります。「決断の質」が上がっていくのです。

囲碁AIのように、社会ではAIによる解析がいろんなところで活用されるように、今後なっていくことは明らかです。それでも人間は、AIの力も借りながら、最後は自分の頭で考えて決断する、その行為がなくなることはありません。決めきることは、何かに任せてはいけない。自分で決めたと思って行動しなければ、次には生かされない。子どものころから「決め癖」をつけて「決断の質」が上がっていくように、たくさん対局していきます。


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